文:水野 誠一 2007年10月

○△□

六本木ヒルズの森美術館でも「六本木クロッシング2007」が始まるが、東京を挙げて芸術の秋が始まった。

ところで、出光美術館では「仙厓展」が開催されている。
そもそも出光コレクションは、ルオーや、サム・フランシスなどの海外美術に並んで、江戸時代の禅僧・仙厓の収集で知られている。つまり十八番の展覧会とも言えるので、決して珍しいわけではないが、仙厓好きとしては見逃せないわけだ。 仙厓の作品では、なんと言ってもその自由奔放な筆運びで描かれた、人物画が素晴らしい。また動物を描いた作品も多く、犬猫から、珍獣のトドまで、あるいは神仏から庶民までを、等しく自由な筆致で描いている。

「○△□」仙厓義梵
「○△□」仙厓義梵(せんがい ぎぼん、寛延3年(1750年)〜天保8年(1837年))

代表作は『指月布袋画賛』などであるらしいが、私が一番好きな作品は「○△□」という、いわば抽象作品である。
好んで禅僧が描く「円相」と呼ばれる○がある。
これは人々の和、円満な調和、穏やかな心、さらには禅の悟りの境地といった象徴として描かれることが多い。
だが、○だけでなく、○△□の作品は他に作例がないらしい。 当然、美術評論家は、この作品が何を表しているのか、などと研究することになる。展覧会の図録では、○は水、△は火、□は地、ではないかとか、○は禅宗、△は真言宗、□は天台宗、といったもっともらしい解釈が紹介されている。 確かにそうかもしれない。
だが、この単純な形は、見る人によって様々なイメージを沸かせてくれる。

私が、一番最初に(20年以上前だが)この作品を見たとき、頭に浮かんだのは、その頃見たエジプトの風景写真だった。
遙か遠くに沈む夕陽を背景にピラミッドが見えるのだが、その前に高層ビルも視野に入る、という不思議な風景だった。超望遠レンズで撮った画面には左手前に四角いビル(□)、真ん中に巨大ピラミッド(△)、右上にまさに沈まんとする夕陽(○)が並んで写っていたのだ。
もちろん仙厓がそんな風景を描いたわけではないが、こうして考えてみると様々な想像力を掻き立ててくれる造形だと言うことが分かる。

たとえば目を丸くする、目を三角にするといった表現もある。
驚いたり、怒ったりするという表現だ。
性格が丸いヒト。性格が四角四面のヒト。性格が尖ったヒトなどの表現もこの三つの形態で表現できる。
こうして見ると、他の具象絵画と違って、抽象的な作品故に、様々な想像を掻き立ててくれるわけだ。

禅や、禅問答自体が、大変に抽象的な概念であるし、それを形に置き換えたのがこの○△□という図形なのかもしれない。
こうして考えてみると、さらに様々に想像は発展する。

現代のプロジェクトに必要な三要素、すなわち○△□とは何か?
○はプロジェクトの調和性。他方△はプロジェクトの先鋭性。最後の□は企画の緻密性、合理性。また□が理性とすれが、△は感性、○は知性だとも考えられる。

こうして考えると仙厓が描き残したこの図形は、現代にも通用する重要なヒントのように思われてくる。

まさに温故知新の旅であった。

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